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教師に必要なのは「観察力」と「洞察力」そして「勇気」である

更新日:2023年6月17日



 私は、一瞬すれ違っただけの人でも、服装や、表情、仕草などで、その人の年齢、職業、人間関係などを想像してしまったり、季節の花の移り変わりや新旧入れ替わる店、町の変化などにも気付いたりする方なのですが、普通はそこまで周りのことを気にしていないと思うと、ある人に指摘されました。


 いつから私がこうだったのかはわからないのですが、少なくとも教師という職業に関係がないとは思えません。特に私は、「日本語がほとんどわからない子ども」を相手としています。彼らはコミュニケーションをとる際、やり取りする情報として最も重要な「言葉」で伝えることができませんから、彼らが伝えたいこと、伝えようとしていることを「言葉以外」の情報から察知することが必要です。ノンバーバルコミュニケーション(=言葉以外でのコミュニケーション)は、相手の表情、声のトーンや強弱、目の動き、ジェスチャー、仕草、相槌の頻度や間隔などで行いますが、これらすべてが彼らの「言葉」となります。それをキャッチするためには「観察」が重要で、あらゆる情報から相手の心理や真意を「想像」することが必要です。ですから、私は人や周りを観察する癖がついているのかもしれませんね。


 さて、指導期間が長くなり、子どもたちが少しずつ日本語を話すようになっても、当然観察は必要です。が、服装や持ち物、表情や話す内容、友達との関係性の変化などの表面上のことだけでなく、その本質を見極めるように心がけます。この時必要なのが「洞察力」です。


 特に表情が暗い時や、なんとなく元気がないというときには、タイミングよく声をかけて、その内面を探るようにします。この時「元気?大丈夫?」と聞くだけではいけません。なぜなら、子どもはほとんどの場合「大丈夫」と答えるからです。「大丈夫」という言葉には、心配なことは何もないという意味のときはありますが、「大丈夫」だといえば、大人たちはそれ以上詮索してこないということを知っていて、答えたくない、話したくないという拒否感情を表すときにも使うからです。


 ではどうすればいいのでしょうか。


 それは質問するとき、具体的な内容で、できるだけ「はい、いいえ」でこたえられないような聞き方をすることです。


 「あれ?今日は○○ちゃん、元気がないね。昨日はよく寝ましたか?」の後に、「何時にねて、何時におきましたか」「朝ごはんは何を食べましたか」「お母さんは夜仕事でしたか」「お母さんとどんなことを話しましたか」「学校がお休みの日はどこかへ行きましたか。何をしましたか」「友達の○○ちゃんと、何をして遊びましたか」「学校では何をするのが楽しいですか」・・・などと体調のこと、学校のこと、学習のこと、友人または家族関係のことなど、様々な方面から質問し、その反応を見て、必要とあればさらに突っ込んで聞き、状況を探っていくのです。


 もしかすると、そのやりとりから虐待やいじめなどの兆候が見つかるかもしれません。過去には、そのような質問の最中に、泣き出した子がいました。中学生でしたが、「学校に行きたくない。友達が誰もいない。でも行かなかったら、親に迷惑をかけるから」とこれまで我慢してきた感情があふれ出てしまいました。当然、その子の授業は中断しました。心に大きな悩みがあるのに、勉強など集中してできるわけがありません。そんな時、ほかのスタッフたちは率先して、協力体制をとってくれます。そして、子どもたちはいつも以上に先生の言うことを聞き「自習」してくれます。


 子どもが落ち着いて、状況を正確に話してくれれば、その後とるべき道はおのずとわかってきます。その上で「あなたは、どうしたい? 私にどうしてほしい?」と本人の意思を確認します。そうでなければ、教師の独りよがりな選択・行動になってしまうかもしれないからです。それからしばらくして、教師の行動とその子の変化をみた他の子どもたちは、プラス・エデュケートの教師をより信頼し、自分も何かあったときには相談してみようと思ってくれるのです。


 一方で、気を付けなければならないことは、「たぶんこうだろう」と、本人に詳細を確かめもせずに、自分で勝手に想像し、よい方向へと決めつけ、彼らの心のサインを見落としてしまうことです。実際、子どもたちの深い部分に切り込んでいくことは、「勇気」がいることです。もしかすると、強い拒否行動があらわれるかもしれません。しかし、それをせず、放置しておけば、問題が表面化したときには、取り返しのつかないことになっていることがあるのです。


 大人と違い、子どもの場合は、対処を後回しにして、よい結果になることはあまりないと思います。異変を感じたらその日のうちに、何らかの行動をとること。何もなければ、「何もないことがわかって安心」すればいいのです。このような細かな観察と洞察力に基づいたフォローがあるからこそ、プラス・エデュケートの子どもたちは、学習を中断することなく継続し、成果をあげることができるのです。

 

人の変化に敏感であること。観察力と洞察力を駆使し、勇気をもって行動すること。これは教師にとって、必要なことではないかと思います。


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